最後は少し感傷的に締めたい。
ユーロ(欧州選手権)2008決勝でドイツを下し、優勝を飾ったスペイン代表DFのセルヒオ・ラモスとGKパロップの2人が、決勝後のセレモニーでそれぞれ特別な人にその優勝をささげた。
セルヒオ・ラモスは、今は亡きアントニオ・プエルタの顔写真と「いつも一緒にいる」という文字が入ったTシャツを着て、優勝の喜びを分かち合った。昨年8月に22歳の若さでこの世を去ったプエルタはセルヒオ・ラモスの親友で、2人はセビージャのカンテラ(下部組織)時代からのチームメートだった。昨シーズン、レアル・マドリー優勝決定後のセレモニーでもそのTシャツを着ていたセルヒオ・ラモスは今大会、なじみのある背番号「2」ではなく、「15」を選んだ。その背番号「15」は、プエルタがスペイン代表に招集された際につけていた番号。国歌斉唱の際、天に顔を向けているのもプエルタを思うためだった。
一方、今回のスペイン代表23名で唯一試合の出場機会がなかったパロップも、粋な計らいで周囲を驚かせた。試合終了後、パロップは古めかしいGKユニホームに身を包んでいたが、実はそのユニホームは1984年大会のスペイン代表GKアルコナーダが着ていたものだった。その大会で決勝まで勝ち進んだスペインは、フランスに0−2で敗れている。その決勝でアルコナーダは、プラティニ(現ヨーロッパサッカー連盟会長)の何でもない直接FKをキャッチミスし、「アルコナーダのゴール」と呼ばれる失点を招いたのだった。
この決勝にアルコナーダが招待されていたことを知っていたパロップは、タイトル獲得後に彼のユニホームを着て優勝をささげるつもりでいたようだ。試合後、パロップは「あの当時、自分は9歳だったけれど、敗戦が悔しくて大泣きした。アルコナーダは自分にとってのアイドルで、あの失点シーンが人々の記憶に残るのが辛かった。それもあって、優勝のセレモニーでは彼のユニホームを着たかった。彼はそれに値する人だから」と説明している。
一年って経つの早いよね。この記事を見るまでそのことに気が付かなかった自分が嫌いになる。今朝、ウィーンのピッチにはスペインの選手が12人いたのかもしれない。それなら彼らがドイツを圧倒したのも頷ける。何となく、そんな話を信じたくなる。あのときにはくそったれの神に悪態をついたけどね。
今回のスペインの恐ろしいところはプエルタはともかくとして、他の15カ国なら間違いなく選ばれたはずの何人かの選手、ラウール、グティ、ホアキン。クルキッチなんかも選ぶ国はあっただろう。それらの選手を外したメンバーであれだけのサッカーを展開して勝った事にあると思う。選手層から考えるとまさに余裕の勝利だったといっていいかもしれない。
今までスペインが国際大会で力を出し切れなかった理由として必ず挙げられるのは国家意識の薄さだろう。カスティーリアだのカタルーニャだのバスクだアンダルシアだとそれぞれの所属地域でまとまってしまい、国民もスペイン代表よりもレアル・マドリーやバルセロナやビルバオの勝ち負けにこだわる部分が強化を阻んだという部分は誰でも思いつくと思う。実際にそのおかげでチームが空中分解という憂き目に何度もあってきた。しかし、今回のチームにはそれがなかった。彼らはスペインだったと思う。
ヨーロッパでは前世紀末から今世紀にかけて民族単位での国家独立がブームになっている。チェコのように平和に済めばまだいいけれども、そうでは行かない場合が残念ながら多い。だからというわけじゃないけれどもなんだろう、異なる民族がひとつの共同体を作ってきた強さというのだろうか。その強さを思い出してもいいんじゃないかと、今回のスペインの優勝にひとつの夢を見た気がする。
おいらがユーゴスラビアに見た夢はまだ終わらない。